なぜ和牛はおいしいの?
脂が多くて霜が降っていても、おいしい牛肉とそうではない牛肉がありますよね。おいしい和牛の特徴として、甘い香りとくちどけの良い脂があります。くちどけについては簡単なので、香り成分については少し複雑です。
トロっとした口どけ
メカニズム
脂の溶ける温度(融点)が低いほど、口の中の体温で溶けるのがはやくなるのでとろけるような食感になります。逆に温かい料理で脂が溶けた状態だと、口に入った時に溶けていた脂が固まってしまうと食感が悪くなったり、クドイと感じられます。
脂には『飽和脂肪酸』と『不飽和脂肪酸』というものがあり、不飽和脂肪酸のほうが低い温度で溶ける(融点が低い)という特徴があります。動物に最も多く含まれている脂肪の『ステアリン酸』は『飽和脂肪酸』で、融点は約70℃です。体温より高いので、口の中で溶けませんね。
身近な例
この特徴を利用した身近な例に、マーガリンがあります。マーガリンは植物油(大豆油、なたね油、コーン油、パーム油、綿実油など)を主原料としています。この植物油は不飽和脂肪酸なので液体です。液体の油を反応させて飽和脂肪酸に変化させることで常温では固体のマーガリンになります。
マグロのトロがとろけるのも同じ理由です。肉よりも魚のほうが不飽和脂肪酸が多いので、冷たい刺身でもトロっと溶けた食感になります。
どんな牛肉がとろけるの?
オリーブオイルにも含まれている不飽和脂肪酸の『オレイン酸』が多い牛肉がいいとされています。 『オレイン酸』は13.5℃と低い温度で溶けるので、口の中で溶けます。特にメスに多く含まれているため、松阪牛の様なブランド牛には子を産んでいないメスという条件があります。
オレイン酸の量は分析ができるので、牛肉の評価の対象にされています。
甘い香り:和牛香
和牛は外国産の牛肉と比べて様々な香り成分があることを、分析で確認することができます。
その正体は?
和牛は『桃やココナッツの様な甘い香り』がします。料理として出された場合は、特に鼻に抜ける香りとして強く感じられます。香りの正体はラクトン系の化合物で、この成分は生肉では感じられず、加熱することによって感じられるようになります。
ただし、加熱すればいいというわけではなく最適な温度があります。低すぎると反応が進まず、高すぎると他の反応が起きたり揮発して減少してしまうためです。
・40℃ではほとんど無い
・60℃ではかなり多い
・80℃で最も多い
・100℃では40℃の時と同じくらい(真空包装した場合は60℃の時と同じくらい)
*1
和牛には他にも様々な香りがあり、脂の香りも和牛らしい香りの一因となっています。その香りはアルデヒド系の物質で和牛に多く含まれています。
甘い・果実様:octanal, heptanal
甘い・脂っぽい・グリーン様:hexanal, nonanal
*2
和牛香の条件
和牛香の中で重要なラクトンの一つにγ-ノナラクトンがあります。オレイン酸が酸化されるとγ-ノナラクトンに変化します。ただし、単純に加熱するだけでは200℃程度の熱が必要です*3。これだと80℃で最も多く発生するという結果と合わないですね。
低温の加熱によって甘い香りが生成されるということについては、鉄(赤身)が触媒となって(反応を助けて)反応が促進されていると考えられます。そのため、霜降りのように脂肪と赤身が接している面積が多ければ多いほど甘い香りが多く発生すると考えられます。
その他の甘い香りや脂の香り(アルデヒド)もオレイン酸やリノール酸の酸化で発生します。
まとめ:和牛らしさ
オレイン酸を多く含み、それが筋肉と混ざり合っている(霜降り)が必要です。食感にも香りにも『オレイン酸』が大切です。
鳥取和牛がオレイン酸の割合を55%以上と規定しブランド化した『オレイン55』や、能登牛が「全国和牛能力共進会」で、オレイン酸の含有率が最も多く「特別賞」を受賞するなど、着目されている成分です。
おいしい調理法は?
『好きな食べ方で』というのが本当の答えだと思いますが、和牛らしさを楽しむということに焦点を当てて考えてみましょう。よく書かれている食べ方は、沸騰していないお湯でのしゃぶしゃぶです。
もっとも和牛香が多くなる、80℃で短時間加熱できる食べ方とすると、しゃぶしゃぶは最適ですね。霜降りの部位であれば、正しい考え方だと思います。
次は霜降りではない部位について考えてみましょう。脂身だけだと、200℃程度の高温でないと和牛香を発生しません。赤身が多めで脂身がついているような部位は、霜降りでない脂の部分が焼ける香りを楽しめる『炙り』もいいと思いました。
↓では、ツラミ(ほほ肉)を炙っている時の和牛の甘いいい香りも感じられておいしかったです。
低温調理(60~70℃)で作ったローストビーフも、とてもおいしいですよね。